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引っ越し初期費用の「交渉できる項目」の見分け方

引っ越し初期費用の「交渉できる項目」の見分け方

賃貸住宅の契約時に提示される初期費用の見積書には、10近い項目が並びます。家賃6万円の部屋でも合計で40万円から50万円になることがあり、その内訳を一つずつ吟味する人は多くありません。

ただ、この見積書には性質のまったく違う項目が混ざっています。法律で上限が決まっているもの、慣習で決まっているだけのもの、そもそも任意のもの。この記事では、その見分け方を整理します。

初期費用のうち法律で上限が決まっているのは仲介手数料だけで、敷金・礼金・各種オプションは貸主や不動産会社が任意に設定した項目です。つまり、交渉できるかどうかは項目ごとに最初から決まっています。

初期費用の内訳は「3つの性質」に分けられる

見積書の項目は、法律で上限が定められたもの、慣習で設定されたもの、任意で追加されたものの3つに分かれます。交渉の当たりどころは後ろの2つで、根拠を持って話せるのは1つ目です。

家賃6万円の物件を例に、典型的な内訳を性質別に整理すると次のようになります。

項目金額の目安性質交渉の余地
前家賃・日割り家賃6〜9万円契約の対価ほぼなし
敷金0〜12万円慣習・貸主の裁量あり
礼金0〜12万円慣習・貸主の裁量大きい
仲介手数料3.3〜6.6万円法律で上限規定根拠を示せる
火災保険料1.5〜2万円加入は一般的/保険会社の指定は別問題あり
鍵交換費用1.5〜2.5万円任意のオプションあり
室内消毒・抗菌費用1.5〜2万円任意のオプション大きい
保証会社利用料家賃0.5〜1か月分貸主が要件化していることが多い小さい

前家賃のように契約の対価そのものである項目は動きません。一方、消毒費用や鍵交換のような後ろのほうの項目は、そもそも入居者に必須のものではなく、見積もりから外せる場合があります。

仲介手数料には法律の上限がある

初期費用の中で唯一、金額の上限が法令で定められているのが仲介手数料です。居住用建物の賃貸借では、借主から受け取れる報酬は原則として借賃の0.55か月分(税込)以内とされています。

根拠は宅地建物取引業法にもとづく国土交通省の告示です。この告示では、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介について、依頼者の一方から受けることのできる報酬は、依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合を除き、借賃の1か月分の0.55倍に相当する金額以内と定められています※1。依頼者双方からの合計額の上限は借賃1か月分の1.1倍です。

つまり「1か月分+税」という請求は、借主の承諾を前提とした運用です。承諾のタイミングは契約直前ではなく、媒介の依頼を受ける時点とされている点も押さえておきたいところです。この告示は令和6年6月21日に改正され、同年7月1日から施行されています※2。

交渉の場では、金額を値切るのではなく「0.55か月分が原則と理解しているのですが、根拠を教えてください」と確認する形が現実的です。応じられない場合でも、その物件を他社が扱っていれば手数料の安い会社経由で申し込む選択肢が残ります。

慣習で決まっている項目ほど動く

敷金・礼金や各種オプション費用には法的な基準がありません。貸主や管理会社が任意に決めている金額なので、条件しだいで動きます。

特に礼金は、貸主に返還義務のない金銭で、地域の慣習として残ってきた項目です。空室期間が長い物件では、家賃を下げるより礼金をゼロにするほうが貸主にとって受け入れやすい、という事情もあります。交渉の順番としては、家賃より先に礼金を持ち出すほうが通りやすい場面が多くなります。

  1. 見積書の項目を性質で仕分ける——法定の上限がある項目、慣習の項目、任意のオプションに分ける。ここまでで交渉先が決まります
  2. 任意のオプションから外す——室内消毒や抗菌施工は、必要性の説明を求めたうえで「不要です」と伝えるのが基本です
  3. 礼金を交渉する——申し込みの意思を示したうえで、礼金の減額かゼロを打診します
  4. 火災保険の加入先を確認する——同等以上の補償内容なら自分で選べないかを聞きます
  5. 時期をずらす——10月から1月の閑散期は、繁忙期より条件が緩みやすい時期です

火災保険の「指定」は別の論点

火災保険への加入を求められること自体は一般的ですが、加入先の保険会社まで指定できるかは別の問題です。同等の補償内容であれば、自分で選んだ保険で差し支えないか確認する価値があります。

賃貸借契約における火災保険の強制加入については、消費者契約法の観点から論点が整理されています。不動産会社が特定の保険への加入を契約の条件とする運用に対しては、その必要性と合理性が問われるという指摘があります※3。

実務では、借家人賠償責任保険が付いていることを貸主が求めるケースが大半です。したがって「保険自体は入る、どこで入るかは選ぶ」という整理で話をすると、こじれにくくなります。

退去時の費用も入居前に決まっている

初期費用の話は入居時で終わりません。契約書に書かれた原状回復の条件が、退去時の負担額を左右します。

国土交通省のガイドラインでは、原状回復は借主が入居時の状態に完全に戻すことではないと整理されています。経年変化および通常の使用による損耗の修繕費用は賃料に含まれるものとされ、貸主の負担です。借主が負担するのは、故意・過失や善管注意義務違反など、通常の使用を超える使い方による損耗に限られます※4。

入居前に確認しておきたいのは、契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担」といった特約があるかどうかです。特約自体はただちに無効ではありませんが、内容が不明確であれば入居前に説明を求めておくほうが、退去時の交渉より確実です。

まとめ

初期費用の見積書は、法律で上限が決まっている項目と、慣習や任意で積み上がった項目の混合物です。仲介手数料には0.55か月分という原則があり、礼金やオプション費用には基準そのものがありません。

やることは3つです。見積書を性質で仕分ける、任意のオプションから外す、閑散期に交渉する。金額を値切る交渉ではなく、項目の根拠を確認する形で進めるほうが、結果的に通りやすくなります。

参考文献・出典

※1 : 「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(建設省告示)令和6年6月21日改正」 |大阪府
https://www.pref.osaka.lg.jp/o130200/kenshin/kokuji/index.html

※2 : 「宅地建物取引業法関係」 |国土交通省
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000266.html

※3 : 「建物賃貸借契約における火災保険への強制加入と消費者契約法」 |公益財団法人不動産流通推進センター
https://www.retpc.jp/archives/17641/

※4 : 「「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について」 |国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

よくある質問

賃貸の仲介手数料に上限はありますか?

あります。国土交通省の告示により、居住用建物の賃貸借の媒介で不動産会社が借主から受け取れる報酬は、原則として借賃の0.55か月分(税込)以内と定められています。ただし依頼を受けるにあたって借主の承諾を得ている場合はこの制限が外れ、依頼者双方からの合計で1.1か月分以内まで受け取れます。

敷金・礼金は交渉できますか?

敷金と礼金の金額を定めた法律はなく、貸主が任意に設定している項目です。そのため交渉の余地があります。空室期間が長い物件や、繁忙期を外した10月〜1月頃の申し込みでは応じられやすい傾向があります。ただし敷金は退去時の原状回復費用を担保する性質があるため、ゼロにすると審査で不利になることもあります。

火災保険は不動産会社が指定したものに入る必要がありますか?

賃貸契約で火災保険への加入を求められること自体は一般的ですが、加入先の保険会社まで指定して強制することには消費者契約法上の問題があると指摘されています。同等以上の補償内容であれば自分で選んだ保険で差し支えないか、契約前に確認する価値があります。