賃貸の更新料、地域で違うのはなぜか——慣行の歴史をたどる
引っ越しの見積もりを並べると、地域によって費目の構成が違うことに気づきます。なかでも分かりにくいのが更新料です。2年ごとに家賃1か月分を求められる物件がある一方、更新料という言葉自体が出てこない地域もあります。
同じ賃貸住宅で、なぜこれほど扱いが違うのか。理由は、この費用が法律の外側にあることに関係しています。
更新料は法律上の義務ではなく、契約書に書かれた特約です。全国一律の根拠がないため、地域ごとに固まった慣行がそのまま残っています。
更新料は法律上の義務ではない
出発点を確認します。借主が更新料を払うのは、法律にそう書いてあるからではありません。
消費者庁の消費者契約法逐条解説は、消費者契約法10条にいう任意規定に含まれる「一般的な法理等」の例として、賃貸借契約において特約がなければ賃借人は更新料を支払う義務は負わない、という考え方を挙げています※1。つまり、契約書に更新料の定めがなければ、支払う理由がありません。
同じ解説は、最高裁の判断を引きながら、更新料条項は一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるものだと整理しています※1。賃貸借契約の本体は、物件を使わせることと賃料を払うことの交換です。更新料はそこに付け足された約束という位置づけになります。
法律で一律に決まっていない費用は、地域や事業者の慣行がそのまま残ります。ここが地域差の出発点です。
首都圏60.5%、中京圏16.7%
実際の差を数字で見ます。国土交通省の令和6年度住宅市場動向調査では、更新手数料がある世帯は全体で44.7%、金額は「1ヶ月ちょうど」が61.5%で最も多いという結果でした※2。
三大都市圏別に見ると、開きは大きくなります。
| 年度 | 全体 | 首都圏 | 中京圏 | 近畿圏 |
|---|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 39.6% | 56.2% | 13.0% | 18.9% |
| 令和4年度 | 45.8% | 63.3% | 18.9% | 25.3% |
| 令和6年度 | 44.7% | 60.5% | 16.7% | 26.5% |
首都圏では6割の世帯に更新手数料がある一方、中京圏では2割に届きません※2。逆に「更新手数料なし」の割合を見ると、令和6年度は中京圏が63.3%、近畿圏が62.6%で、首都圏の25.4%とはっきり分かれます※2。
注目したいのは、この差が5年間でほとんど縮んでいない点です。制度が変わったわけでも、事業者が全国で統一されたわけでもないため、地域ごとの水準がそのまま維持されています。
最高裁は「書いてあって高すぎなければ有効」とした
慣行が固定された理由のひとつが、司法の判断です。更新料の有効性は長く争われ、下級審の判断も分かれていました。
最高裁は平成23年7月15日の判決で、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項について、更新料の額が賃料の額や更新される期間等に照らして高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと判断しました※1。
この事案は、賃貸借期間が1年、更新料が賃料の2か月分というものでしたが、特段の事情があるとはいえないとされ、条項は無効になりませんでした※1。
判決が示したのは、更新料そのものを否定も肯定もしない枠組みです。契約書に明確に書かれていること、金額が過大でないこと。この2つを満たす限り、地域ごとの水準は司法によって是正されません。慣行を平準化する力が働かないため、差は残り続けます。
慣行が残る条件
整理すると、更新料の地域差は次の3つが重なって維持されています。
- 法律に定めがない——特約として書いてはじめて発生します
- 判例が原則有効とした——地域差を是正する方向には働きません
- 相場が需給で決まる——借り手が集まる地域ほど、貸主側の条件が通りやすくなります
3番目は、首都圏で更新料が定着している背景として説明されることがあります。ただし、賃貸市場の需給だけでは、近畿圏と中京圏の差は説明しきれません。地域ごとの取引慣行が、いったん形成されると変わりにくいという性質のほうが大きいと考えられます。
借りる前に見る場所
借りる側にできるのは、契約前に確認することです。
- 募集条件で更新料の有無を見る——初期費用ではなく継続費用として比較します
- 契約期間と更新料をセットで計算する——1年更新で1か月分は、2年更新で1か月分の2倍の負担です
- 更新事務手数料が別にあるかを確認する——更新料とは別に管理会社へ支払う費目が設定されている場合があります
- 総額を居住予定年数で割る——4年住むなら、更新2回分を家賃に上乗せして比べます
2番目は見落とされがちです。金額が同じ1か月分でも、更新の頻度が違えば年あたりの負担は変わります。募集情報では月額家賃が目立ちますが、比較すべきは居住期間全体の総額です。
まとめ
更新料が地域で違うのは、この費用が法律ではなく契約書の特約として存在しているからです。国土交通省の調査では、更新手数料がある世帯は全体で44.7%、首都圏で60.5%、中京圏で16.7%と、3倍以上の開きがあります。
最高裁は平成23年7月15日の判決で、契約書に明確に書かれ、金額が過大でない更新料条項を原則として有効と判断しました。地域差を是正する仕組みが働かないため、いったん形成された慣行はそのまま残ります。借りる側は、家賃だけでなく更新料と契約期間を組み合わせ、居住予定年数での総額に直して比べるのが確実です。
参考文献・出典
※1 : 「消費者契約法逐条解説 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)」 |消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/assets/consumer_system_cms203_230915_17.pdf
※2 : 「令和6年度 住宅市場動向調査報告書」 |国土交通省 住宅局
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001900667.pdf