スーパーの卵が特売の定番である理由——目玉商品の経済学
スーパーのチラシを見ると、卵はほぼ毎週登場します。しかも安い。ときには「1,000円以上お買い上げで1パック◯円」という条件つきで並びます。
なぜ卵なのか。他の食材ではなく卵が選ばれ続けるのには、商品としての性質に理由があります。
卵が特売の定番になるのは、購入頻度が高く、多くの人が相場を覚えているからです。価格を記憶されている商品を安くすると、その印象が店全体の安さとして受け取られます。
「価格を覚えている商品」という条件
小売の現場で目玉商品に選ばれる商品には、いくつか共通した条件があります。もっとも重要なのは、客がその価格を覚えているかどうかです。
人は買い物のたびにすべての商品の価格を記憶しているわけではありません。しかし頻繁に買う商品については、だいたいの相場を持っています。この相場と比べて安ければ「安い」と判断し、高ければ「高い」と感じます。
卵はこの条件を強く満たします。多くの家庭が週に1回以上購入し、パック単位という分かりやすい単位で売られ、規格もある程度共通しています。比較しやすく、記憶されやすい商品です。
逆に、めったに買わない調味料や加工食品を安くしても、客はそれが安いのかどうか判断できません。だから印象に残りません。
「目玉商品」の採算構造
特売の卵は、それ単体で利益を出すことを想定していません。役割は集客です。
来店した客は卵だけを買って帰るわけではなく、その日の献立に必要な食材をあわせて購入します。卵で失った利益を、他の商品で回収する。これが目玉商品の基本的な構造です。
だからこそ、購入条件がつくことがあります。「1,000円以上お買い上げで」という条件は、卵だけを買う行動を避け、来店を売上につなげるための設計です。
| 目玉商品に選ばれやすい条件 | 卵の場合 |
|---|---|
| 購入頻度が高い | 週1回以上買う家庭が多い |
| 価格が記憶されている | パック単位で相場が分かる |
| 規格が比較しやすい | サイズと個数が共通 |
| 日持ちする | まとめ買いに向く |
| 用途が広い | 献立の幅が広く、他の買い物を誘発する |
最後の項目も重要です。卵を使う料理を考えれば、他の材料が必要になります。目玉商品としての効率がよいのは、この波及があるためです。
「物価の優等生」が揺らいだとき
卵が長く安売りの対象であり続けたのは、価格が安定していたからでもあります。安定しているからこそ、相場が記憶され、特売の効果が出ます。
ところがこの安定は、供給側の事情で崩れることがあります。農畜産業振興機構の資料によれば、2023年には鳥インフルエンザの感染拡大による供給減少や飼料費の上昇を背景に、鶏卵の卸売価格が1キロ当たり283円まで上昇し、前年同期比で18.4%高い水準となりました。小売価格も1パックあたりで前年から大きく上がったことが示されています※1。
このとき多くの人が価格上昇を強く感じたのは、日ごろから相場を覚えていたためです。値上がりが分かりやすいという性質は、特売が効く理由の裏返しでもあります。
農林水産省は食肉・鶏卵の価格や需給に関するデータを月次で公表しており、日別の価格推移も確認できます※2※3。相場が気になる場合は、こうした一次データで確認できます。
買う側としての使い方
目玉商品の仕組みを知っていると、買い物の判断が少し変わります。
- 卵の価格を店の安さの指標にしない——目玉商品は意図的に安く設定されています
- 日常的に買う数品目の価格で比較する——複数の商品で見ると店の水準が分かります
- 購入条件を確認する——合計金額の条件がある場合、不要な買い物を誘発することがあります
- まとめ買いは消費ペースに合わせる——安くても使い切れなければ意味がありません
- 相場の変動要因を知っておく——供給側の事情による上昇は、待っても下がるとは限りません
1番目と2番目は組み合わせて使うと有効です。卵が安い店が、他の商品も安いとは限りません。
まとめ
卵が特売の定番であり続けるのは、購入頻度が高く、価格を記憶されている商品だからです。相場と比べて安ければ「この店は安い」という印象が生まれ、その印象が店全体に及びます。
一方で、その記憶されやすさは値上がりの実感にも直結します。2023年の高騰が強く受け止められたのは、卵が長く安定してきた商品だったからです。買う側としては、卵の価格だけで店を判断せず、日常的に買う複数の品目で比べてみてください。
参考文献・出典
※1 : 「鶏卵卸売価格(A3カルテット)」 |独立行政法人農畜産業振興機構(ALIC)
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002996.html
※2 : 「食肉・鶏卵」 |農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/shokuniku/lin/index.html
※3 : 「日別情報グラフ(畜産物)」 |農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/tokei/syohi/oroshi_kakaku/tikusan.html