なぜそうなる? | | 更新: | TrinityStyle編集部 | 6分で読める

家電の「指名買い」が減った10年——購買行動の変化を読む

家電の「指名買い」が減った10年——購買行動の変化を読む

家電を買うとき、「今回は◯◯社にする」と決めてから店に行く。かつては珍しくない買い方でしたが、いまは製品単位で比較してから決める人のほうが多くなっています。

この変化は好みの問題ではなく、判断材料の置き場所が変わったことによるものです。

商品の現物確認と価格が最も重視される要素である点は変わりません。変わったのは、それに続く判断材料がネット上の口コミや商品説明に移り、メーカー名の役割が相対的に小さくなったことです。

ブランドは「情報の代わり」だった

指名買いが成立していた時代には、それなりの合理性がありました。製品ごとの詳しい情報を手に入れる手段が限られていたためです。

カタログと店頭の説明しか判断材料がない状況では、個々の製品を比較しきれません。そこで人は、過去の経験や評判にもとづいて「このメーカーなら大きな失敗はない」という判断をします。ブランドは、足りない情報を補う代替物として機能していました。

言い換えれば、指名買いは情報が不足しているときの合理的な戦略です。比較のコストが高い状況で、探索の範囲を絞る手段だったといえます。

したがって、情報が豊富に手に入るようになれば、この戦略の必要性は下がります。

判断材料の重心はどこにあるか

では現在、人は何を見て決めているのでしょうか。公的な調査から、重視される要素の順序が読み取れます。

消費者庁の消費者意識基本調査をもとにした整理によれば、購入時に最も重視される要素は商品の現物確認が約4割、価格が約3割で、この2つが合計で約7割を占めます。次いで、家族や友人からの情報、インターネット上の口コミ・評価スコア、インターネット上の商品説明情報が、いずれも4割を超えています※1。

判断材料位置づけ
商品の現物確認最優先(約4割)
価格次点(約3割)
家族・友人からの情報4割超
ネット上の口コミ・評価スコア4割超
ネット上の商品説明情報4割超

注目したいのは、この上位にメーカー名が単独では現れないことです。現物と価格という製品固有の情報が中心にあり、それを補うのが口コミや説明情報になっています。

ブランドは判断の入口ではなく、複数ある材料の一つに位置を移したと読めます。

世代で参照先が違う

同じ調査からは、もう一つの変化が読み取れます。年齢によって参照する情報源が異なる点です。

若い年齢層ほど、インターネット上の口コミ・評価スコアや商品説明情報を重視する傾向があり、年齢が高いほどその重視度は下がります※1。

この差は、売り場での会話にも表れます。ブランドの信頼性を尋ねる質問と、特定製品の実際の使い勝手を尋ねる質問では、必要な回答がまったく違います。前者にはメーカーの実績が答えになり、後者には製品ごとの仕様と使用条件が答えになります。

売り場の説明が噛み合わないと感じる場面があるとすれば、この参照先のずれが原因かもしれません。

指名買いの利点は残っている

比較できるようになったことで、別のコストが生まれました。選択肢が多すぎて決められない、という状態です。

比較のために費やす時間、条件の優先順位づけ、レビューの読み込み。これらは以前は不要だった作業です。すべての製品を検討しようとすると、判断そのものが負担になります。

現実的な折衷案として、絞り込みの段階だけブランドを使う方法があります。

  1. 用途と予算から必要な条件を決める——サイズ、機能、設置場所などを先に固定します
  2. メーカーを2〜3社に絞る——修理体制やサポートの評価を基準にします
  3. その範囲で製品を比較する——価格とレビューを見る対象を限定します
  4. 現物を確認する——最も重視される要素であり、写真では分からない部分を見ます

最初からメーカーを1社に決めるのではなく、比較の範囲を絞るためにブランドを使う。これなら選択肢の多さによる負担を抑えつつ、製品単位の比較もできます。

まとめ

家電の指名買いが減ったのは、ブランドへの信頼が失われたからではありません。ブランドが担っていた「情報を補う役割」の必要性が下がったためです。

現在の判断材料の中心は現物確認と価格にあり、それをネット上の口コミと商品説明が補っています。ただし選択肢が増えた分、比較のコストは上がりました。ブランドを絞り込みの道具として使う買い方は、いまでも有効です。

参考文献・出典

※1 : 「令和3年版消費者白書 第1部 第2章 第3節 (1)「消費判断のよりどころ」」 |消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2021/white_paper_133.html

※2 : 「消費者意識基本調査」 |消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/research_report/survey_002/

よくある質問

「指名買い」とは何ですか?

特定のメーカーや型番を決めたうえで買いに行く購買行動を指します。かつては信頼できるブランドを決めておき、その中から選ぶ買い方が一般的でした。現在は製品単位での比較が容易になったため、メーカーを先に決めずに条件で絞り込む買い方が増えています。

購入時に何を判断材料にしている人が多いのですか?

消費者庁の消費者意識基本調査をもとにした整理では、最も重視される要素は商品の現物確認と価格で、この2つで約7割を占めます。次いで家族や友人からの情報、インターネット上の口コミ・評価スコア、商品説明情報がいずれも4割を超えています。

年代によって判断材料は違いますか?

違います。20〜30代ほどインターネット上の口コミ・評価スコアや商品説明情報を重視する傾向があり、年齢が高いほどその重視度は下がります。同じ商品を選ぶ場面でも、世代によって参照している情報源が異なることになります。