なぜそうなる? | | 更新: | TrinityStyle編集部 | 6分で読める

「DIY沼」の正体——コスパでは説明できないハマる心理

「DIY沼」の正体——コスパでは説明できないハマる心理

DIYを始める理由としてよく語られるのは、既製品より安く作れるという点です。ところが実際にやってみると、材料費に工具代が加わり、作業時間も相当かかります。

それでもDIYを続ける人は増えています。金銭的な合理性では説明しきれないこの現象には、行動経済学の研究で説明のつく部分があります。

自分で労力をかけて作った物には、評価が上がる傾向があります。この効果は完成した場合にのみ働くことが実験で示されており、DIYが続く理由と、途中で挫折すると続かない理由の両方を説明します。

コストで見ると割高になりやすい

まず前提を確認します。DIYは金銭面で有利とは限りません。

棚を1つ作る場合を考えると、材木、金具、塗料といった材料費に加えて、電動ドライバーやのこぎり、やすりなどの工具が必要になります。工具は繰り返し使えますが、最初の1点にはその費用が丸ごと乗ります。

さらに作業時間があります。設計、買い出し、加工、組み立て、塗装と進めれば、休日が一日つぶれることも珍しくありません。この時間を金額に換算すれば、既製品を買うほうが安いという結論になりがちです。

にもかかわらずDIYは続きます。ということは、コスト以外の何かが働いていることになります。

自作物への評価は上がる

その何かを説明する研究があります。自分が組み立てた物に対して、人は高い評価をつけるという現象です。

ノートン、モション、アリエリーによる研究では、参加者にIKEAの家具の組み立て、折り紙、レゴの制作といった作業をさせたうえで、その物の価値を評価させる実験が行われました。結果として、自作した物への評価が上がる現象が確認され、この現象はIKEA効果と名づけられました※1。

注目すべき点が2つあります。1つは、参加者が自分の不完全な作品を専門家の作品と同等に評価し、他人も同じように評価するだろうと期待していたこと。もう1つは、この効果が作業を無事に完了した場合に限って生じたことです。

作った物を壊された場合や、完成させられなかった場合、IKEA効果は消えました。つまり効いているのは労力そのものではなく、労力をかけて完成させたという経験です。

「沼」の構造

完成が効果の条件だとすると、DIYが段階的に深まっていく構造も説明できます。完成の経験が次の挑戦を呼ぶからです。

段階作るもの何が起きるか
1100円ショップの材料で小物完成の経験が得られる
2棚やラック工具を買い足す。可能な範囲が広がる
3家具・造作材料費が上がる。設計を考えるようになる
4住宅の補修・改修工具が増える。時間の投入も増える

各段階で完成の経験が積み重なり、自作物への評価が上がります。同時に工具が増えることで、次にできることの範囲が広がる。この2つが同時に進むため、後戻りしにくい構造になります。

これは損得の判断が狂っているのではなく、得ている価値の種類が変わっているだけです。最初は「安く作る」だったものが、途中から「作ること自体」に移っています。

続けるための設計

沼にはまること自体は問題ではありません。ただ、費用と場所が無制限に増えるのは困ります。歯止めをかけるなら、上限を先に決めるのが有効です。

  1. 工具の置き場所を先に決める——収納が上限になり、買い足しに自然な制約がかかります
  2. 一度に手をつける対象は1つにする——完成しないままの物が増えると、満足感が得られません
  3. 最初は小さく完成させる——完成の経験が次につながるため、規模より完了を優先します
  4. 既製品と比べない——目的が「安く作る」から移っている以上、比較しても意味が薄くなります
  5. 使う予定のある物から作る——実際に使われることで、完成の満足感が持続します

2番目は特に重要です。途中で止まった物が視界にあると、IKEA効果が働かないまま負担だけが残ります。

まとめ

DIYが割高になりやすいのは事実です。それでも続くのは、自分で作り上げた物への評価が上がるという心理が働くためです。この効果は完成した場合にのみ生じることが実験で示されています。

だからこそ、続けるコツは規模を大きくすることではなく、確実に完成させることにあります。工具の置き場所という物理的な上限を決めておけば、費用の膨張にも歯止めがかかります。DIYを損得で語ろうとするとかみ合わないのは、得ているものが金銭とは別の種類だからです。

参考文献・出典

※1 : 「The ‘IKEA Effect’: When Labor Leads to Love(Working Paper 11-091)」 |Michael I. Norton, Daniel Mochon, Dan Ariely・Harvard Business School
https://www.hbs.edu/ris/Publication%20Files/11-091.pdf

よくある質問

DIYは既製品を買うより安く済みますか?

必ずしも安くなりません。材料費に加えて工具代がかかり、作業時間も必要です。特に最初の1点は工具の購入費が乗るため、既製品より高くつくことが珍しくありません。それでもDIYが続けられるのは、コスト以外の価値が働いているためです。

自分で作ったものに愛着がわくのはなぜですか?

自分が労力をかけた物への評価が上がる傾向があり、行動経済学ではIKEA効果と呼ばれます。ノートン、モション、アリエリーによる研究では、自作した物の価値評価が上がり、参加者は自分の不完全な作品を専門家の作品と同等に評価しました。ただしこの効果は、作業を無事に完了した場合に限られると報告されています。

DIYにのめり込みすぎないコツはありますか?

工具と材料の置き場所をあらかじめ決めておくことが有効です。DIYの費用は工具の買い足しで増えていくため、収納スペースを上限として設定すると歯止めになります。また、完成しない状態が続くと満足感が得られにくいため、一度に手をつける対象を1つに絞るほうが続きます。