暮らし・インテリア | | 田中 舞 | 6分で読める

「DIY沼」にハマる人が増えた本当の理由——コスパではなく達成感

「DIY沼」にハマる人が増えた本当の理由——コスパではなく達成感

週末にホームセンターを覗くと、木材コーナーやペンキ売り場が賑わっています。「ちょっとした棚を作りたい」と始めたはずが、気づけば工具が増え、次の作品構想を練っている——いわゆる「DIY沼」です。

DIYにハマる人が増えた理由は、節約でも流行でもなく、「自分の手で完成させた」という達成感が脳に心地よい報酬を与えるからです。

なぜDIY人口は増え続けているのか?

コロナ禍をきっかけに始めた人が多いですが、行動制限が解除された後も市場は成長を続けています。

きっかけはコロナ禍の在宅時間

内閣府の調査では、コロナの影響下で「家の修繕などに取り組んだ」と答えた人は28%※1。LIXILの調査でもDIYに取り組んだ・取り組みたいと答えた人は19.4%にのぼります※2。

一過性のブームではない底堅さ

総務省「社会生活基本調査」によると、25歳以上のDIY行動者数は約1,172万人です※3。ホームセンター業界の2024年度総売上高は4兆459億円と4年ぶりに増加に転じており、一時的な流行ではないことが数字で裏付けられています※4。

  • DIY行動者数:約1,172万人(25歳以上)※3
  • ホームセンター総売上高:4兆459億円(2024年度、4年ぶり増加)※4
  • コロナ禍に家の修繕に取り組んだ人:28%※1

「DIY沼」にハマる心理メカニズムとは?

DIYが「やめられなくなる」背景には、2つの心理学的メカニズムがあります。

イケア効果
自分が組み立てや制作に関わった製品に、本来以上の価値を感じてしまう心理現象。ハーバード大学のマイケル・ノートン氏らが2011年に命名・研究しました※5。
自己効力感
心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「自分にはできる」という確信のこと。達成経験(実際にやり遂げた体験)が最も強力に高めるです※6。

イケア効果:労力をかけるほど愛着が生まれる

ハーバード・ビジネス・スクールのノートン氏らの研究では、自分で組み立てた家具に対して、組み立て済みの同等品より63%高い金額を支払ってもよいと回答しました※5。折り紙の実験でも、自分が折った作品には他人の作品の約4倍の価格をつけています。完成品を眺めるたびに「自分がこれを作った」という満足感がよみがえり、次の制作に手が伸びます。

自己効力感:成功体験が次の挑戦を生む

棚を1つ作れた人は「次はテーブルもいけるかもしれない」と感じ、テーブルが完成すれば「壁面収納にも挑戦してみよう」と思う。この循環が「DIY沼」の構造です。筆者も最初は100均のすのこで小さな棚を作っただけでしたが、半年後にはホームセンターで電動ドライバーを買い、今ではウッドデッキの補修まで自分でやるようになりました。

コスパで測ると赤字なのに、なぜやめられない?

冷静に計算すると、DIYは必ずしもコスパがよいとは言えません。工具の初期投資、試行錯誤で無駄になる材料費、作業に費やす時間——これらを時給換算すれば、既製品を買ったほうが安い場合も多いでしょう。

比較項目DIY既製品購入
初期コスト材料費+工具代(累積で高くなりがち)商品価格のみ
時間コスト設計・買い出し・作業で数時間〜数日購入・組み立てで30分〜1時間
仕上がり自分好みにカスタマイズ可能プロの品質で安定
満足度達成感+愛着(イケア効果)が高い便利だが愛着は生まれにくい
失敗リスク材料無駄・やり直しの可能性ありほぼゼロ

それでもDIYをやめられない人が多いのは、「節約」が動機ではないからです。ホームセンター市場の内訳では、消費者がプロ並みの工具や高品質な材料を選ぶ方法が増えており※4、「安く仕上げたい」のではなく「いいものを自分の手で作りたい」というモチベーションが見えてきます。

SNSの普及も「沼」を深くしています。自作の棚やテーブルをInstagramやYouTubeで共有すれば「いいね」が承認欲求を満たし、次の制作への意欲がさらに高まります。

DIYを始めるおすすめの方法は?

「小さな成功体験」からスタートするのが、DIY沼に足を踏み入れるコツです。

ステップ1:100均の材料で1時間プロジェクトに挑戦

すのこを組み合わせた簡易棚やスマホスタンドなど、1時間以内に完成するものから始めましょう。失敗しても損失は数百円。大事なのは「自分で完成させた」という体験を1回でも得ることです。

ステップ2:次は1,000〜3,000円の材料で「見せる作品」に挑戦

100均で成功体験を得たら、ホームセンターの木材やペンキを使って調味料ラックや壁掛け収納に挑戦。仕上がりの質が上がると、達成感もぐっと大きくなります。

ステップ3:工具に投資して「本格DIY」の世界へ

電動ドライバーやサンダーなど、基本工具を揃えると作れるものの幅が一気に広がります。ここまで来るとイケア効果と自己効力感が完全に起動し、「DIY沼」に片足が入った状態です。

  • 初心者おすすめ:すのこ棚、スマホスタンド、コースター
  • 中級者おすすめ:調味料ラック、壁掛け収納、ミニテーブル
  • 沼にハマった人:本棚、ウッドデッキ、キッチンカウンター

ただし、ハマりすぎにはご注意を。気づけば工具が増え、作業スペースを確保するために新しい棚を作り、その棚に工具を並べるために別の収納を作り……。「DIY沼」とはよく言ったものです。

まとめ

DIYにハマる人が増えた本当の理由は、コスパではなく「達成感」です。イケア効果で自分が作ったものに過大な愛着を感じ、自己効力感が次の挑戦を後押しする。この心理サイクルがDIY沼の正体です。ホームセンター市場の底堅さやDIY行動者1,172万人という数字は、一過性のブームではなく「作る楽しさ」が人間の根源的な欲求であることを物語っています。まずは100均の材料で1時間だけ試してみてください。

参考文献・出典

※1 : 「コロナ禍における生活意識・行動の変化に関する調査」 |内閣府 https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/index.html

※2 : 「コロナ禍でも44%が『リフォームしたい』」 |LIXIL調査(リフォームオンライン) https://www.reform-online.jp/news/manufacturer/19009.php

※3 : 「社会生活基本調査」 |総務省統計局 https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/kekka.html

※4 : 「ホームセンター市場占有率2025 4年ぶりに市場規模拡大の背景」 |ダイヤモンド・チェーンストアオンライン https://diamond-rm.net/market/market-share/524080/

※5 : Norton, M. I., Mochon, D., & Ariely, D. (2012). “The IKEA Effect: When Labor Leads to Love.” Journal of Consumer Psychology, 22(3), 453-460. https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=41121

※6 : 「自己効力感」 |Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%8A%B9%E5%8A%9B%E6%84%9F

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よくある質問

DIYが節約にならないのに続けてしまうのはなぜですか?

心理学で「イケア効果」と呼ばれる現象が関係しています。ハーバード大学などの研究で、自分が手を動かして作ったものには、既製品より63%高い金額を払ってもよいと感じることが示されています。労力をかけるほど愛着が生まれるため、コスパ度外視で続けてしまいます。

DIYで得られる達成感にはどんな心理的効果がありますか?

心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感」が高まる効果があります。自分の手で何かを完成させた成功体験が蓄積されると、ほかの課題にも前向きに取り組めるようになります。

DIYを始めるのにおすすめの最初の一歩は?

100円ショップの材料でできる小物収納やスマホスタンドなど、1時間以内で完成する小さなプロジェクトから始めるのがおすすめです。失敗しても損失が少なく、完成した達成感をすぐに味わえます。