「DIY沼」にハマる人が増えた本当の理由——コスパではなく達成感
週末にホームセンターを覗くと、木材コーナーやペンキ売り場が賑わっています。「ちょっとした棚を作りたい」と始めたはずが、気づけば工具が増え、次の作品構想を練っている——いわゆる「DIY沼」です。
DIYにハマる人が増えた理由は、節約でも流行でもなく、「自分の手で完成させた」という達成感が脳に心地よい報酬を与えるからです。
なぜDIY人口は増え続けているのか?
コロナ禍をきっかけに始めた人が多いですが、行動制限が解除された後も市場は成長を続けています。
きっかけはコロナ禍の在宅時間
内閣府の調査では、コロナの影響下で「家の修繕などに取り組んだ」と答えた人は28%※1。LIXILの調査でもDIYに取り組んだ・取り組みたいと答えた人は19.4%にのぼります※2。
一過性のブームではない底堅さ
総務省「社会生活基本調査」によると、25歳以上のDIY行動者数は約1,172万人です※3。ホームセンター業界の2024年度総売上高は4兆459億円と4年ぶりに増加に転じており、一時的な流行ではないことが数字で裏付けられています※4。
- DIY行動者数:約1,172万人(25歳以上)※3
- ホームセンター総売上高:4兆459億円(2024年度、4年ぶり増加)※4
- コロナ禍に家の修繕に取り組んだ人:28%※1
「DIY沼」にハマる心理メカニズムとは?
DIYが「やめられなくなる」背景には、2つの心理学的メカニズムがあります。
- イケア効果
- 自分が組み立てや制作に関わった製品に、本来以上の価値を感じてしまう心理現象。ハーバード大学のマイケル・ノートン氏らが2011年に命名・研究しました※5。
- 自己効力感
- 心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「自分にはできる」という確信のこと。達成経験(実際にやり遂げた体験)が最も強力に高めるです※6。
イケア効果:労力をかけるほど愛着が生まれる
ハーバード・ビジネス・スクールのノートン氏らの研究では、自分で組み立てた家具に対して、組み立て済みの同等品より63%高い金額を支払ってもよいと回答しました※5。折り紙の実験でも、自分が折った作品には他人の作品の約4倍の価格をつけています。完成品を眺めるたびに「自分がこれを作った」という満足感がよみがえり、次の制作に手が伸びます。
自己効力感:成功体験が次の挑戦を生む
棚を1つ作れた人は「次はテーブルもいけるかもしれない」と感じ、テーブルが完成すれば「壁面収納にも挑戦してみよう」と思う。この循環が「DIY沼」の構造です。筆者も最初は100均のすのこで小さな棚を作っただけでしたが、半年後にはホームセンターで電動ドライバーを買い、今ではウッドデッキの補修まで自分でやるようになりました。
コスパで測ると赤字なのに、なぜやめられない?
冷静に計算すると、DIYは必ずしもコスパがよいとは言えません。工具の初期投資、試行錯誤で無駄になる材料費、作業に費やす時間——これらを時給換算すれば、既製品を買ったほうが安い場合も多いでしょう。
| 比較項目 | DIY | 既製品購入 |
|---|---|---|
| 初期コスト | 材料費+工具代(累積で高くなりがち) | 商品価格のみ |
| 時間コスト | 設計・買い出し・作業で数時間〜数日 | 購入・組み立てで30分〜1時間 |
| 仕上がり | 自分好みにカスタマイズ可能 | プロの品質で安定 |
| 満足度 | 達成感+愛着(イケア効果)が高い | 便利だが愛着は生まれにくい |
| 失敗リスク | 材料無駄・やり直しの可能性あり | ほぼゼロ |
それでもDIYをやめられない人が多いのは、「節約」が動機ではないからです。ホームセンター市場の内訳では、消費者がプロ並みの工具や高品質な材料を選ぶ方法が増えており※4、「安く仕上げたい」のではなく「いいものを自分の手で作りたい」というモチベーションが見えてきます。
SNSの普及も「沼」を深くしています。自作の棚やテーブルをInstagramやYouTubeで共有すれば「いいね」が承認欲求を満たし、次の制作への意欲がさらに高まります。
DIYを始めるおすすめの方法は?
「小さな成功体験」からスタートするのが、DIY沼に足を踏み入れるコツです。
ステップ1:100均の材料で1時間プロジェクトに挑戦
すのこを組み合わせた簡易棚やスマホスタンドなど、1時間以内に完成するものから始めましょう。失敗しても損失は数百円。大事なのは「自分で完成させた」という体験を1回でも得ることです。
ステップ2:次は1,000〜3,000円の材料で「見せる作品」に挑戦
100均で成功体験を得たら、ホームセンターの木材やペンキを使って調味料ラックや壁掛け収納に挑戦。仕上がりの質が上がると、達成感もぐっと大きくなります。
ステップ3:工具に投資して「本格DIY」の世界へ
電動ドライバーやサンダーなど、基本工具を揃えると作れるものの幅が一気に広がります。ここまで来るとイケア効果と自己効力感が完全に起動し、「DIY沼」に片足が入った状態です。
- 初心者おすすめ:すのこ棚、スマホスタンド、コースター
- 中級者おすすめ:調味料ラック、壁掛け収納、ミニテーブル
- 沼にハマった人:本棚、ウッドデッキ、キッチンカウンター
ただし、ハマりすぎにはご注意を。気づけば工具が増え、作業スペースを確保するために新しい棚を作り、その棚に工具を並べるために別の収納を作り……。「DIY沼」とはよく言ったものです。
まとめ
DIYにハマる人が増えた本当の理由は、コスパではなく「達成感」です。イケア効果で自分が作ったものに過大な愛着を感じ、自己効力感が次の挑戦を後押しする。この心理サイクルがDIY沼の正体です。ホームセンター市場の底堅さやDIY行動者1,172万人という数字は、一過性のブームではなく「作る楽しさ」が人間の根源的な欲求であることを物語っています。まずは100均の材料で1時間だけ試してみてください。
参考文献・出典
※1 : 「コロナ禍における生活意識・行動の変化に関する調査」 |内閣府 https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/index.html
※2 : 「コロナ禍でも44%が『リフォームしたい』」 |LIXIL調査(リフォームオンライン) https://www.reform-online.jp/news/manufacturer/19009.php
※3 : 「社会生活基本調査」 |総務省統計局 https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/kekka.html
※4 : 「ホームセンター市場占有率2025 4年ぶりに市場規模拡大の背景」 |ダイヤモンド・チェーンストアオンライン https://diamond-rm.net/market/market-share/524080/
※5 : Norton, M. I., Mochon, D., & Ariely, D. (2012). “The IKEA Effect: When Labor Leads to Love.” Journal of Consumer Psychology, 22(3), 453-460. https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=41121
※6 : 「自己効力感」 |Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%8A%B9%E5%8A%9B%E6%84%9F